トップバー
最新ニュース
机に1000万…「俺は逮捕されへん」不良国税OBの金貸し顔負け“ナニワ金融道
2013/03/10 00:00

消費税増税も間近に迫る中、まっとうな納税者をあざ笑うかのような脱税事件が発覚した。3月5日、大阪地検特捜部は、架空の融資で赤字が出たとして法人所得を隠し、脱税した疑いで、大阪国税局元職員の税理士、細名高司容疑者(60)=兵庫県西宮市二見町=ら3人を逮捕した。細名容疑者は「税務調査の内部情報が取れる」という“殺し文句”で顧客を獲得しては、貸金業者よろしくサイドビジネスに精を出していたとされる。しかも脱税事件では、手口の指南役と目されている。まさか国税局OBの税理士が脱税を指南するとは。驚きを禁じ得ないが、実態は案外そうとも言えないようで…。

 ■架空仕入れに休業法人悪用…

 過去約10年で3件。

 この数字は、脱税を指南したとして大阪国税局OBが摘発された事件数だ。片手に余るとはいえ、決して少ないとは言えないだろう。

 法人税約1億5300万円を脱税したとして平成14年、大阪国税局が法人税法違反罪でビデオテープの輸入卸売と製造卸売の会社2社を告発した事件があった。

 この事件では、業者の顧問税理士で同局OBの税理士も告発対象となったが、今回の事件と同様、脱税方法の指南役とされた。

 手口は、架空の仕入れを計上するなどで2社計約4億4500万円の所得を隠していたという。この税理士は当時、「依頼されて脱税するための方法を考え、不正に加担していた」と話していた。

 2年後の16年。今度は別の大阪国税局OBが、自動車部品販売会社の約9100万円の脱税に関与したとして、法人税法違反の罪で大阪地検に告発された。こちらの手口は、休業法人を利用し、ソ\フト開発費などの名目でこの法人の口座に支払い、後でバックするというもので、2年間で約3億700万円の法人所得を不正に隠蔽(いんぺい)したとされた。

 この税理士は事件で有罪判決を受けたが、2年後の18年2月、テレホンクラブ運営会社のグループ会社5社が約8600万円を脱税したとされる法人税法違反事件で、東京地検特捜部に逮捕されてしまった。

 ■懲戒免職の果てに

 そして25年3月、新たな大阪国税局OBによる「脱税指南事件」が発覚した。細名容疑者だ。

 逮捕容疑は、記帳代行業の中村晋也(41)=兵庫県伊丹市=と会社役員の小川大典(だいすけ)(46)=大阪市西区=の両容疑者と共謀。大阪府東大阪市の不動産会社「大阪産業」の税務申\告に際して架空の損失を計上する手口で、23年10月までの1年間で同社の法人所得約1億円を隠して法人税約3100万円を免れたとしている。

 税金を不正に免れるのは、おおざっぱに言うと経費や損失を実態以上に大きく仮装するか、利益を不当に圧縮して小さく見せかけるか、に大別される。人件費の水増しなどが前者で、外国為替証拠金取引(FX)によるもうけを除外したりするのが後者だ。

 今回の事件は前者のパターンといえ、細名容疑者が指南役、中村容疑者は申\告手続きに関与しており、小川容疑者は大阪産業の架空の融資先役を担った、というのが捜査当局の見立てだ。特捜部はほかに、同社の実質的経営者である男性取締役(60)についても任意で調べる。

 関係者によると、細名容疑者は昭和50年に大阪国税局に採用。法人部門の税務調査などを主に担当し、平成8年に神戸税務署へ異動したが、10年、自身が申\告漏れを指摘した税務調査先の会社に対し、税理士をしていた弟を紹介。これが国家公務員法違反(信用失墜行為)にあたるとして、懲戒免職となっていた。

 その後、細名容疑者は顧客を多数抱える“敏腕税理士”となったのだが、才覚が発揮されたのは、また別の分野だったという。

 ■金庫に数億円

 「マルサの話は取られへんけど、料調(リョウチョウ)の話なら取れる」

 細名容疑者を知る男性は、こう話すのを聞いたことがあるという。

 マルサとは、映画でおなじみになった国税当局の査察部のこと。強制調査権を持って脱税を摘発し、刑事事件として告発することでも知られている。一方の料調。聞き慣れない言葉かもしれないが、課税部の「資料調査課」を差す。強制調査権はないものの、国税の中でも困難な事案や悪質な所得隠しの調査を担当しており、調査される側からするとマルサに負けず劣らず恐ろしい存在といえるだろう。

 この料調の情報を得ることができると吹聴していたとされる細名容疑者。

 知人によると、「脱税者のリストを元に記載先に連絡し、顧問税理士にしないかと持ちかけた」と話しており、「情報はおれの宝」と得意げだったという。

 そうして顧問先に勧誘すると、次には「隠している金を預かる」と低金利で借り受ける。この金を資金繰りに窮している別の顧問先に貸し付けていたといい、「(細名容疑者の)税理士事務所の机の引き出しに1千万円。金庫には数億円が常に入っていた」と証言する人も。

 細名容疑者から借金した経験のある自営業者は、借金の条件として顧問契約を締結し、返済に加えて月1万〜1万5千円の顧問料を支払っていたという。

 「一戸建ての自宅は貸付金の利息で購入した」とも話していた細名容疑者。「おれは絶対にパクられ(逮捕され)へん」とうそぶいていたといい、昨年末には大阪・ミナミの繁華街で豪遊する姿も見かけられたという。

 またもや摘発された大阪国税局OB。あるOB税理士は「脱税の相談にすら乗るわけがないのに、脱税の指南とは。同じOBとしてこんな人間がいたのは残念。OB税理士は、たとえ先輩と後輩の間柄でも、疑念を持たれないように現役職員との付き合いを絶つようにしているのが普通。懲戒免職になった時点で現役との関係は切れているはずで、内部情報が取れたなんて考えられない」と話している。

<産経新聞より>



©2009 柴森忠司税理士事務所 All rights reserved.